Q:オーボエのリードは自分でつくったほうがいいのでしょうか

A:
 オーボエは知られている通り繊細な楽器です。
チューブシャンクの底にあたる、楽器の入口の内径は僅か4mm程。それがだんだん拡がってベルに向かっていきますが、それが必ず、仮令メーカーや型番が同じでも一定ではなく、個体差となって現れますが、音孔もそれぞれやたらと小さく、微細な打込み角度や大きさの差が再び個体差を生みます。それらは材料の選び程度では吸収出来ず、仕上段階での調整もやはり最小限に留めるに過ぎず、性能の違いとなって残り、奏者の手許に届くのです。
どんな楽器でもこういう性能差・機能差はありますが、オーボエは先ずチューニングを何かしらを動かして行う余裕がない程小さい為、それさえ奏者が何とかしなければならないものですし、また同時に奏者が人間である以上、口腔の大きさ、歯並び、喉の広さ、肺活量、筋力が個々に違い、それらすべてが音になるのですが、楽器自体を含めそれらの長点欠点が訓練だけで克服されるものでもないのを経験上得ている為、良いところを伸ばし悪いところを鎮める為にも、古来より奏者自身がリードをつくる、ことになっているのです。
これがイングリッシュホルンになって来ると、管の長さが多くの不都合を吸収し始めますから、奏者自身が奏で易いかどうかという課題の範囲が狭まって来ます。ファゴットになるとさらに音をまとめる性能は上がります。でもはやり、発音を始め個人差に迎合した製品を期待することは出来ません。

当店で売るリードは、各々工房が作ったものですが、中には専門の会社が商品として企画し機械で生産したものもあります。。製作者や企画者は元或いは現役の奏者や指導者でもある場合が多いので、勿論先の「不都合の克服」についてはよく分かっています。しかしながら、皆、他人であり、それを買い求めて使う奏者自身ではないのです。長い管をもつ大きな楽器なら少しはマシになりますが、オーボエや、オーボエミュゼットに関しては、楽器が小さ過ぎて、他人が作ったリードは元々使い辛くて当たり前なのです。

買ったリードと作ったリード。買うならお金を払えば良いですが、稼ぐ為に努力しなければなりません。作る為にもそれなり以上の努力と忍耐、当初は金銭も必要です。作り始めは演奏の練習よりずっと辛いと思うことでしょう。旨く出来なかったり、失敗して割ってしまったりすると悔しいです。でも、もし自分にピッタリの、美味しいリードが出来たなら、案外演奏の練習は手短かで済んでしまいますし、おかしな力も入らないので音も綺麗で、満足出来ます。また、そういうリードで奏でられている楽器は、長もちするので、調整や修理のコストを削減することも出来、さらに自分の楽器固有の特徴を引出すことも出来る為、買い換えに腐心する悩みが減少します。
その重量で比較した場合、オ−ボエ程高価な管楽器はないといってもいい位ですから、一つの楽器を長く健康によい音で使えることは何より稼ぎです。

リードづくりには、正直な話、こうしなければならないという決まりごとはありません。そのため昔から様々な製作支援工具が作られています。決まりがないということは、それら工具が必ず使われなければならないということではないのです。材料の葦茎を割って、薄く削り、形をそれらしくしてチューブに巻き固定して、音が出るように削り、音程を合わせ、発音をやり易くし、個々の音癖を抑える手当てをしていくことは、どんな機械を使っても同じことで、どんな手を使っても、結局理解し、工夫していくしかないのですが、取り組んで、続けているうちに孰れコツは分かります。削る形も、売っているものは多くが削り込みが短いものですが、これは仮仕上に「プロファイラ」という支援工具を使い易く、その後の手間が減るからで、大半を手作業するしかない削り込みの長いやり方は量産性が落ちる為商品にする側に好まれないというだけですが、逆に長く削るやり方は、少々材料が悪くても完成させられ、時には笹でも蘆でも河原の葦でも代用にしうるやり方でもありますから、型にこだわることなくいろいろなことが出来るようになることも大切だと思います。
支援工具には、葦茎を割ったものを薄くするもの(ガウジングマシン)、仕上がりの形にするもの(シェーパー)、削り込みをするもの(プロファイラやメーキングマシン)等があるので、経験していくうちに、製作数や目的に合わせ買うのが望ましいと思います。最初からでは、作業自体に慣れて居ない為、微妙なそれら工具を壊してしまう虞れがありますし、大体道具が持つ意味の際立った部分の価値が分からないままになってしまいます。敢えて最初からあった方がいい専用の道具はシェーパー程度です。その他のものは、趣味的に演奏する人の製造数を鑑みるなら、工夫してその他の方法を講じた方が理解出来、費用も掛かりません。組上げや削りに失敗して割る等は、どんないい機械を使っても起こりますから、各々の工程の意味を体得して卒なくこなすよう訓練を積んでからでないと、無駄な買い物になりかねません。

大体、リードは買ったものでも、作ったものでも、「そのままずっと使える」というものでもありません。材料の葦茎は笹に似た繊維構造で、加工の為に長く乾燥させられていますから、演奏して濡れ、終えて乾くを繰り返すと太りますので、ある程度削ぎ落としてやらねばなりません。つまり、完成商品リードを買っても、結局ナイフを当てねばならないのですから、ある程度作れるようになっておくことが、買って来たものを上手に使えるようになることでもあります。マウスピースのある楽器の一枚リードも、分かっている人はトリムしたりシェーブしたり調整して使いますね。同じことです。その為にも、丈夫な鋼で出来た専用乃至はいいナイフを、満足に研げるようになることも必要になります。

同時に、自作リードは、案外長もちします。完成品をそのまま或いは調整しても、製作者の持つ癖に購入者が合わせて使うのですから何処かに必ず無理が掛かりますので、その分だけ寿命は短くなります。自作したものは、自分の癖にあっているのですから余計な力が掛からず、演奏がラクになり、その分寿命は相対的に伸びるのです。永続的に使える訳ではありませんが、楽器に無理をかけないことと同じことを期待出来るのです。

リードを自作して演奏すると得をすることが、もうひとつあります。必要な時期に、必要な場所から、リアルタイムに出来上がって来るのが自作です。要るから即つくって出来たから使うんですから当たり前ですが、販売品は、何時作ったか分かりません。オーボエは、微妙故に天候気候、気温湿度の影響をモロに受けますから、「要る時期」「要る場所界隈」で作れるということは、それだけその時その場に相応しい演奏に結びつき易いことなのです。

ダブルリード楽器のいろいろな形の中で、オーボエとオーボエミュゼットのみがボーカルという吹き込み管を使いません。これは不安定な振動成分を除去出来る可能性を相当捨てていることにもなるものです。同じようにリードを使う楽器でも、クラリネットやサクソフォンはマウスピースで音源制御した上にバレルやネックでさらに振動を整えています。楽器は工業製品ですから、発生が近くなればそれだけ「改善」されて作られているのですが、そんなただでさえ不安定・未完成なオーボエをより上手に楽しむ為、是非自作に前向きに取り組んで下さい。