バイオリンの分数楽器のおはなし

分数楽器は、身体の小さい人やお子さまがバイオリンを習得・演奏する為に作られる楽器です。

バイオリンは擦弦楽器です。これは、弦の振動のエネルギーが弓により擦られることで長続きさせられるという特徴があります。二胡や、この楽器群の原型である馬頭琴も同じく擦弦楽器です。撥弦楽器であるギターやハープは、弦自体の重量に、はじくことでエネルギーを与え、減衰やそれに伴う発音も、弦の比重と長さで厳密に固定されますが、擦弦楽器は、弦の比重や長さに関係なく、弓の毛を引き摺り与えられる振動が続く限り発音を続けます。よって、そのスケール(弦長)を短くしても、音量の性能の減少は否めぬとしても、機能自体には変わりはないことは、容易に思い付くことであり、規準スケールにこだわらなくとも、弦のゲージを選び、音響的に適合させれば小型化はあってしかるべき発想だと言えます。また、当初というより極最近迄はバイオリンの弦というと羊の腸を暖かいうちに取出して洗って絞めることから製造が始まるガット弦でしたので、ゲージ合わせも割に簡単だったので、結構安易に行われたことでしょう。

そういう訳で、バイオリンの小型化は昔から行われており、勿論当初は分数というガイドラインなどありませんでした。現在ビオラに関しては古来の製作方法に則っており、演奏しうる寸法を指定して製造させますが、曾てバイオリンもそうされていました。しかし、バイオリンがこの楽器群の最小であり、材の調達や加工も楽器群中最も短い時間で行えること、さらに声域がソプラノ乃ち西洋音楽的にいう主旋律を担うものであることから、この群の楽器のエントリーと考えられ、教えることをカリキュラム化する必要から、段々と幾つかの小型サイズの基準値が定まり、19世紀中盤には全長43cm以上のものについては大体確立されましたが、特注が絡む為猛烈な高値になり多くは望めないことや、技巧の高度化と、多くの音楽ジャンルにこの楽器が浸透して大衆化するに従い、音楽興行業界も多くの出し物を打つようになり、より幼いころから習熟した若い奏者が大勢必要になって来た為、19世紀末から20世紀初頭にかけ、より小型化が試みられ、次第に普及しましたが寸法的にはバラバラ、余りに分散化すると微妙過ぎて楽器店が販売に困る為、そのころ日本において分数割りとしてある程度規格化する動きが現われ、一気に世界に浸透していきました。発生が日本というところが大変興味深いのですが、それだけ日本人は西欧のみならず見知らぬ文化に触れ親しむことに貪欲で、自らのものにする努力を厭わない民族だという処でしょう。明治中期には既に、日本製のバイオリンは今の中国製のバイオリンのように、漸く帆装を手放したばかりの汽船に乗り全世界に供給され、輸出向け物産として政府の奨励を受ける主幹産業にもなったため、受注を円滑化し生産ラインを確立する為、商品の規格割りは絶対必要なプロセスだったのです。

規格の考え方は、本来は4/4を標準サイズとし、その胴体容積の何分の一という設定なのですが、実際は厳密にそう計算しても数値的にかなりオーバーする為、結論としては楽器サイズの通り名であると考えるのが適当です。大体その製造の都合上、小型化しても素材は変わらず、小型分数楽器には大体必ず全弦にファインチューナーが与えられているのが普通です。
むろん、バイオリンが小型になれば、必要となる弓も小型のものが必要になります。この長さは、楽器の大きさに比して違えられているのではなく、そのサイズの楽器を使う最も小柄の人のリーチが規準になっています。分数バイオリンには、同じ分数の弓を使って下さい。弓の重量や太さ、毛幅も演奏の適否に関与します。

規準となる体格は、時代により変化しています。また、欧米のモデルには、日本で6〜8才の男子に良く薦められる1/10サイズは御座居ません。またその規準寸法自体も、欧米のものと日本のもので違いがあります。また、女性用として近年多くなって来た7/8というサイズに関しては製作者が限定されているばかりでなく寸法数値に規準がありません。1/10は永らく日本独自のもので、弦メーカーの多くには専用の弦がないため、1/8のものを切り詰めたり、巻き上げたりして利用します。その為、欧州向けを意識するメーカーはこのサイズは製作しません。7/8は極めて微妙に4/4より短いだけですので、余程小柄な人は3/4を使ったほうが成功するかも知れません。1/32に関しては、小さ過ぎて作り辛いことと案外普及しなかったことから極一部の製造者がアウトフィットセットとして用意しているに過ぎません。

専ら、分数楽器の選択には、先ず身長をベースに、腕の長さを加え検討します。身長は合っても、腕が短ければ小さめのサイズを、その逆なら大きめのサイズを選びます。習熟度に影響しますから、将来大きくなったら無駄になるといって大きめのサイズばかりを追いますと失敗します。むしろ、小さめのサイズの方が有効だったりするのです。だから、買い換えの時は、本当に今買い替えて良いかを熟慮しましょう。ちょっと小さくて演奏会で見た目のバランスが悪いからと慌てて買い替えるのは絶対禁物で、楽器のサイズに慣れ自分のものになる迄相当な時間が掛かるものですから、サイズアップしても当分は両方を使ってその違いを会得するくらいの余裕が欲しいものです。

物理学を少し、興味を持って学んだ方なら直ぐお分かりになると思いますが、フルサイズバイオリンの弦を切り詰めて長さだけ合わせても、分数楽器には使えません。大人になってからビオラも弾くとなると早速クダラナイことで悩む結果になる為、ここでこれはハッキリさせておかねばならないこの問題、各々の弦長にて鳴り易くなるよう、適合するサイズの弦となるよう重量が計算されて作られるのですが、格別小さい楽器には特に重いパワーのあるものを使った方が当然乍ら大きな音になります。しかし、弦メーカーが皆小型楽器の研究を真面目にするかということになると、これは凡そ「そういう趣味のある職工」がある一時代在籍して「趣味的に開発」して残すものなので、人材に恵まれなかったメーカーやブランドにはボッコリとある部分「欠落」があります。1/10より小さい楽器の満足な弦を揃えているメーカーは、稀少です。

フルサイズは必ず大人が弾くものというものでもありません。分数といいますが、1/8以上になれば音量も充分期待出来ます。1/2や、3/4は、バイオリンを嗜んだことがない大人の方には、ストレスなく指をまわせるようになるサイズでしょう。また、バイオリンを既にある程度嗜んでいる人であれば、1/16といった極端に小さいものでも、余興として楽しんで頂くことが出来ます。よって、当店では、分数楽器を必ずお子さまの練習用としては考えません。また小型になる程にご覧のように可愛いサイズでディスプレイにも好適だと思います。


写真は9才のおおきめの子、楽器は1/8です。
この位が、丁度良いと思います。

こちらは2才3月児、1/32を半年間時折さわっています。

バイオリンサイズと体格適応表:単位cm(センチメートル)
SIZE A B C D 適応身長 適応
胸掌長
4/4 58.9 35.5 32.7 20.8 145〜 64〜
3/4 55.6 33.2 30.8 19.5 145〜130 58〜64
1/2 51.6 31.0 28.6 18.2 130〜125 50〜58
1/4 47.8 28.7 26.5 17.1 125〜115 45〜50
1/8 43.9 26.2 24.1 15.6 115〜110 40〜45
1/10 40.7 23.5 21.9 13.9 110〜105 38〜40
1/16 36.1 21.0 19.5 12.4 〜105 〜38
1/32 33.3 20.0 17.6 12.0 〜100 〜35
単位はcm。
全ての数値は、国際規格ではない概算数値の為、製造者の意匠や個体差により若干相違あります。
胸掌長とは、手を握らず左腕を左横一杯に水平に延ばし、胸骨上端中心から掌中心迄の長さを測ったものです。

弓の全長:単位cm
4/4 3/4 1/2 1/4 1/8 1/10 1/16 1/32
74 68 61.5 56.7 51.5 46 42 41

上図は、専ら一般的に使われるチャートですが、案外子供の腕は身長の割に長かったりします。特に十才前後は、これからの成長の準備が出来上がり、身体の作りのバランスが微妙に狂います。よって、お薦めは案外もっと現実的な部分のサイズとなります。欧米でよく使われるサイズ取りは結構簡単で、左腕を外へ一杯、腕を曲げずに指を揃えて水平に伸ばし、まっすぐに立ち上がらせ、巻き尺等で、胸骨の中心部から伸ばした腕の掌の中央への距離を測って次の数字に合わせます。これを胸掌長適合といっています。身長との適合性をビューバランスとしてみるなら、胸掌長における適合性を実用バランスとみるべきです。

ここで思い当たるのが、微妙な揺らぎを加える必要はないか、ということです。揺らぎとはこの場合、身体を優先するのかその他条件を優先するかなのですが、例えば、習熟が優先される場合、丁度より大きなサイズが選べるリーチがあっても小さめを選び、習熟はある程度充分だから音量負けを防止する為に大きめを選ぶことが一つ上げられます。しかしながら専ら、小型と言えど習熟度が充分ある、既に使用していたサイズからの大型化には、むしろナーバスになって、さらにもう一段上のサイズも検討に入れられるくらい迄待つことは重要です。ローポジションでの指の回りはもとより、ハイポジションでの指の届きにも慎重になるべきですし、音楽性を広げる上でも弾きやすさは要素ですので、習熟度に合わせ、サイズアップよりむしろ弦を選んだりして音量や反応性の調整をされるべきでしょう。もう一つは、大人だからといって誰彼構わずフルサイズというのは案外無理があると考えることで、身長2mに及ぶ大柄なプロのバイオリニストといえどもフルサイズの楽器を使っており、大きいからと言ってビオラを弾いている訳ではないことからも頷けることなのですが、もしリーチが65cmあったとしても、未熟或いは高齢からの着手となると、より小型で軽い3/4か、または中間サイズの7/8も検討に入れるべきということです。老齢からの取り掛かりの場合や、下肢障碍がある方、このほか今更指を広げろと言われても困るとか大きな楽器の取り回しに不自由すること等で躓く場合は、思い切って1/2でトライされても良いと思います。
弓も楽器の全長に従い、サイズに合わせて短く細くなりますが、当然、バイオリンと同じサイズを使う必要があります。これは、右腕は身体を躱して左肩の上にあるサウンドポジションで扱う為、一層リーチの影響を受けるからに他ならぬこと、弓自体の重量からくる、バイオリン全体の性能のことの両方が関与しているからです。

何れにしても、分数だから子供用、未熟者が使うものと考えない方が良いと思います。1/4以上になって来ると、ボウイングが不的確では立派に弓が笑います。音も確かにフルサイズにくらべると小さいですが、ちゃんと響きを捉えられますから、取掛かりやすい寸法のモノを入手して先ず掛かってみることも出来るのがバイオリンなのだと見て頂きたい所です。

サイズ適性は、表によるなら、その身長、胸掌長の範囲が、そのサイズの楽器の持ち始めだ、とご理解下さい。持ち終りは、人によりますので、慌てないで下さい。また、これらから、結局分数バイオリンの選択は、始めが肝心なのだとご理解下さい。取り掛かりの時期に「どうせおおきくなるんだから」といって無理な大型から始めるより、少し小さいくらいが理想ということです。

お求めに際しては、現在、7/8、1/10、1/32の各サイズに関して、かなり製造者やグレードが限定されて来ています。同時に数がないので、価格はお高めになります。専ら7/8は高級品です。これら御留意下さい。

また、分数の楽器は、元々音も小さいし、楽器自体も小さくて大人では旨く弾けないというのがありまして、ちゃんとした調律がされることは稀なのです。小さいからこそ、行き届いた調律がされなければ、よい響きは得られませんし、気持ちよい運指も叶いませんが、当店関係者は皆幼少の頃、理解されないそれらに涙した記憶があります。よって、しつこいくらい調律には力を注がせていただきます。満足行かない楽器は全て不良品扱いにします。お子様の大切な思い出と経験の為に...。

当店は、買い換えに際して下取のサービスをさせて頂いております。分数楽器は特に、次に成長して来る或いは新しくバイオリンを始めるお子さま方に役立てるべく、鋭意下取に力を入れていきたいと思います。満足な額でお引取り出来ないかも知れませんが、リサイクルという意味合いで御協力頂けますと幸いです。

ただ、お子さまの最初の楽器だけは、ファーストバイオリンという意味合いで記念にとっておくという習慣もあります。2台目以降の分数器をお買い換えになる折に御相談いただければと思います。

当店の御用意する楽器は全て、入荷時とお引渡時に試奏を含む完全点検と調整を施しております。よって弓には松脂がつけてあります。決して中古等では御座居ませんので予めご了承下さい。

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