Q:
もし素人が楽器を購入しようとする場合、いったい、どこで、どこの、何をみてどうやって選んだらいいのでしょう。。

A:
 バイオリンに限らず、楽器というものは、一般的工業製品の流通及び仕込み方法が通用致しません。

無理を承知で申し上げますと、現在当店で御用意する価格帯の多くの場合、20年前は無理でした。うちあたりの3万5万と同じようなパフォーマンスが欲しければ最低30万円といわれておりましたが、もっと安くていい音のする楽器をとの求めに応じて、供給側も努力研鑽、自作不能ならもっと安く仕事をしてくれる国や地域を頼って、製品仕込みに近い形で受け入れ、自店名で売ることになっていく訳ですが、偶々隣の中国で、昔から多くバイオリン製作業が営まれていたお陰で、地の利と人慣れしさえすればこのように、御応え出来ております。

そこで、何故、輸入して売る人が製造元の名称を冠して売ろうとしないで皆胴元の名前に替えて売っているのか、という問題に移ります。

先程のように、やはり楽器は一般的な工業製品ではありません。設計図があっても、作る人の練度のみならず、聞こえ方や見え方触れた感じ方等々感性の違いや変化、さらには健康状態の違い、ムシノイドコロの違いによって、製品の完成度自体は同じでも音色やプレイアビリティが変わります。こういう不安定なものを、カタログを発行する胴元は感覚的に一定の品質レベルを維持しつつ供給しなければならない責務を負う、ということになります。製造元の名を残している限り、何等かの理由で品質が変わった時、胴元が目指す品質を得る為に製造者を換えなければならない事態も容易に起きて来ます。では統べて自社製品ならどうかとなると、それもまた変化を起こしてしまいますから一筋縄ではいきません。

バイオリンに関していうと、音色や音量はまさに千差万別、唯一無二であり、同じ佇まいを得られる楽器は他にありません。製作者はその時にこれぞと感じる音を店に対して提供し、店はこれならと信じるプレイアビリティをそれに加えて顧客に提供するというもので、何れも動機付けそのものに違いはありません。楽器が店から離れた後も、顧客である奏者の手許で、よく使われるか滅多に使われないか、手入れをするかしないか、弦や属具を好みで替えたりとかが加わり、どんどん様子が変わっていきます。
それは、その他の器目の楽器であっても殆ど状況は同じです。

例えば、バイオリンを所謂素人さんが初めて買おうとする場合、カタログで選んで注文するだけでは、「何だか不十分な完成度の」ものを得てしまうのは致し方ないことです。他の楽器でもそこそこ、それと同じことが起こります。もし、ある程度経験があるなら、そうして手にしてから、不具合というより不都合な部分を見い出して、それを自身のプレイアビリティに適合させる調整を依頼することが出来ますが、よくいう素人さんにはそのスキルはありません。それではと、ついている先生に聞いてみたところで、これでいいんじゃないか?と言われてしまうこともしばしばですし、逆にそれが先行したものの、お高いお話が出て、ついていけなくてあれこれ探すことになったという人も多くあります。

そこで間違いない御提案として、先ず予算立てをしっかりすることをお薦めします。予算立てがあれば、カタログでもウェブでも資料をひもとけます。その後、自分の予算に適当なものを持っているお店に話を聞きましょう。試奏は調弦が出来る人でなければ適否を判定する材料を齎しません。木管楽器では、リードとマウスピースが決まっている人、金管楽器では音のあたりを抜差し管で調整出来る人でないと、何も意味を持ちませんから、最初に安い楽器を試してもらって、何個か過ごしてから高い楽器を試してもらえばその頃には「ちょっと上手になっている」ので少しばかり良い音がする訳ですから、そこで予算を崩してしまえるかどうかという課題に迫られてしまいます。
次に、誠実なお店に行き当たることです。これは探索に限度がありますので、出かける人は普段の行動半径の中にあるか、外れてもたまにならそれ程苦労しない、反応が速くて何事にもはっきりしているところでしょうか。通信輸送を容認するならそのうち後者は絶対条件です。そういう何軒かの中で、自分がアクションを起こし易いと思える「人」がいるところを選びましょう。

楽器が調整済で店にあるかどうかに関しては、そこそこお店のカラーが出るところです。バイオリンはお店の音色がするといわれることもあるくらいですが、むしろその位「手抜きが無いもの」を置くところの方が初心者向きです。

楽器が偽物か本物かに関しては、深いところに規準になるものはあっても、先の通り、家庭的なプライスバンドにおいては無意味ともいえることです。既に何等かのブランドが付いている時点でともすれば偽物とせざるを得ない一面を持っているのが楽器です。製作者によっては、自作であっても作者名を出さないことを条件に取引する人も居る世界です。素人なのですが、と仰る時点では、その楽器がどういう経路で手許に来たかを詮索することそのものに価値がありません。これから習熟するにあたり、音が当て易く、柔軟性もそれなりにある弾き易い楽器に出会えれば、価格でも看板でもなく、それそのものがよいものになる筈です。バイオリンなら一人で一作を仕上げられますが、他の楽器には殆ど一人で仕上がるものはなく、高度技能の分業がひとつになって最終的な音作りに結びつく特殊な工芸品であることは、値段に関係なく同じですから、店から出て来る時点では全てが本物なのです。バイオリンでは、無銘製作品の中から秀逸なものを選んで自店銘を与える例も数多あります。その秀逸感も、音色なのか仕上がりなのかはお店の目するところに依り、規準はありません。高そうな銘柄のラベルをそれこそ偽作して貼り替えたのはもう昔の話であり、今はそのような行いに価値も可能性も無いことは皆が知っているところです。お店は何処も、そのもののもつ個性が御値段に相応しいかどうかを基に値段を決めていますので、どれも価格相応で損は無いのですが、そういうなかで、素人さんが納得出来るお買い物に結び付けて頂く為に、予算立てそのものが決め手となりますから、御自分に相応しい価格ビジョンを勇気を持って押し通して頂きたいと思うところです。

但し、それが低すぎると悪いお買い物になりがちだ、ということはお伝えせねばなりません。どんな楽器も、お渡し出来る状態になる迄は最低数時間集中してそれのみを調整しなければなりません。簡単なつくりの管楽器でも万単位、バイオリンに至っては数万円は最低掛かると目して下さい。狙う予算がもしそれを下回るようなら、より親身なお店を選ばれることは肝要です。お店によっては諸掛かりを度外視して一先ず弾ける楽器を持ってもらいたいと活動しているところもありますが、金額が見合わないからとメーカー出の吊るしの状態に手を付けないところもあり、然し乍ら経済的な面でいえば後者が正統なので、どちらかを持ち上げて評価することは出来ません。むしろ、どちらにも良い面はあるものです。いいとこどりはなかなか難しいですが、お買い物も御習い事の一つですから、経験を積んで御贔屓を御育て頂くことも必要ですよ。

もどる