Q:弦の選び方

A:
 最高のお薦めは、ガット(羊の腸でつくられたもの)の弦ですが、
正直いって何でも同じです。
と、言い切ってしまうと楽器屋のHPらしくないのですが、要は好みの問題でもあるし、機能上要求される部分もあり、一概にどれが良いと言えないのだということです。

 弦楽器ですから、弦がないと音が出ないので使えなくなってしまいます。木管楽器にはリードが必要になるのと同じです。但し、木管楽器のリードの場合は、楽器や奏者の諸々の条件に見合うものをそこそこ以上に自作せねばなりません。弦楽器の弦は、それほどシビアなものではありません。

 逆に、求められている条件が特段にないことから、迷いや好みが顕著に現れて来るともいえます。

 しかし、だからといってあれこれ試すばかりでは、癖とか馴染みとかが得難くなります。何でも同じというのは機能の問題で、種類や銘柄が変われば、それなりに出来具合いや性能が違いますから、張った弦の求める使い方が変わって来るものなので、またそれなりに慣れていかねばならず、その為の奏法上の癖も現れて来ます。

 性能的には、専ら振幅が大きいのはガット弦です。次にナイロン等合成素材、最も振幅が小さいのがスチールです。この種類間の交換に関しては、大抵楽器の調律の変更が必要になるでしょう。それを伴わないで交換だけしても、悪い部分が際立つ可能性を大いにはらんでいます。

 振幅が小さく、張力のあるスチールの弦は今最も多用されています。価格もさることながら、強力に楽器を鳴らすことが出来ること、弓使いの不安定さを張力がある程度吸収する為安定した音色・音階を保てる、物理特性が齎す性能を要求される部分が多いのです。それで専ら初心者向けとして使用されますが、そういう安定性を要求する上級者も大勢います。また、旨い人程スチールの良さを引出して音楽性に色艶を与えて聞かせようとするようです。
同時に演奏性能の長さも、弦の破損が事故に繋がり難い信頼性を齎します。

 逆に最も音としてバイオリンらしさが現れるガット弦は、素材の不安定さがマイナスの決定要因となります。何故これが発する音がそれらしいかは、バイオリンが生まれた時代のことを思えば容易いことで、その時代はガットの他の素材が見当たらなかったからというだけのことです。しかし大事に使えば演奏性能はスチールに劣らぬ位長く、切れる直前が一番良い音がするという人もあります。そのため交換時期を躊躇うこともあり、それが断線事故に繋がっていく訳です。

 最近利用者の増えている合成素材弦は、まだまだ開発の余地がある種類です。これを使う人の多くは、古いかまたは古い思想で作られている楽器を使っている為、強い金属弦を使うことを躊躇わざるを得ません。しかしガット弦を使うには、劣化を見切って事故を防ぐという面で不安定さが残る為こちらもいまひとつ踏み切れません。そういう訳で逃げ場になって伸びて来ました。
 格別小型の分数バイオリンにとって、良く研究された合成素材弦は強力な立ち上がりと共鳴を得易く、素晴らしいパフォーマンスを発揮します。これはフルサイズではそれ程特徴的ではありませんから驚きを以て喜ばれるものです。しかしながら、その性能も存分に調律され弦の性能を発揮出来る状態でなければ活き切れないのは事実です。小型のバイオリンを真摯に調律し切る技術者はそれほど多くはありません。

 その他、弦の太さや張力の小さいことを運指の容易さに繋げて利用する人も、これまた大勢います。金属弦では細くて強い為、運指がし辛いという場合が多いのですが、これは調律で改善します。そうして性能面を改めた楽器にガットや合成の弦を載せると逆に演奏し辛くなったり使えない奏法が出たりします。逆もまた然りです。

 もうひとつ、大切なことがあります。

 演奏寿命の短い、高価な弦を、頻繁に交換することを要求して全うかどうか、人によって違うことです。交換作業で切ってしまったり、交換しても数日は全く落ち着かず使えなかったり、また、元々お小遣いがそんなに高い弦を買う程用意出来ないという人に対して、いくら良い面が「みえる」からといって、条件に見合わないものを勧めることはためらって当然でもあります。

 お金を沢山出したらいいものが買えるのは、アタリマエです。しかし楽器は音楽をやるもの。やる人も聞く人も、高ければ高い分だけ良い思いが出来るかは、案外そうでもないものです。

 よって、価格も選択規準としてもち、使い易いものを選んで下さい。

 専らお薦めは、お持ちの楽器が手許に来た時に付いていた弦乃至はそれに近い性質のものです。大体凡そ、楽器の調整が、その楽器の性能を最大限引き出せる状態に仕上げられていることが先決の条件でもある問題なのです。そういう訳で、弦を変えたいと思った時は、楽器の調整調律を先行させた方が良い場合も多いというものです。弦の性能は、楽器の音自体にとって、隠し味程度のものでしかないものですから、高い弦が必ずしも良い音を齎してくれるとは限りません。

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